小麦な生活

川越ベーカリー楽楽

埼玉県川越市

川越は「蔵の街・小江戸川越」として人気の旧城下町。 川越商人気質の残るこの地では、行政に頼らない市民主導のまちづくりが行なわれている。 散策ルートの蔵造りの町並みを通り過ぎたちょっと先の菓子屋が並ぶ「お菓子横町」に入った所に川越ベーカリー 楽楽さんのお店がある。 店主の上野岳也さんは建築・広告関係の会社に勤務されていたが、「自分の生まれ育った川越で仕事をしたい」と独立し、 奥さんの上野祐子さんと一緒に2006年ベーカリーをオープンした。 ご実家が酒屋さんで「食」分野に興味があり、当時、有機栽培やポストハーベスト(収穫後に使用される農薬)など食の安全が話題になっていて 日本の小麦で安全でおいしいパンがつくれないかなと思ったこと、 ご夫婦共にパン好きで祐子さんがパンを焼いていたことをきっかけに、パン屋さんを始めた。

川越ベーカリーは、北海道産の小麦、自家製醗酵種、(合成保存料・合成乳化剤等)無添加、手づくりにこだわって、 「日本ならではのパンづくり」を目指している。特に食感にはこだわって、固そうに見えるパンも日本人好みにもっちりと仕上げ、 季節を感じられるパン、日本の食材を使ったパン、日本にしかないあんパンやカレーパンのように具を生地で包むパンや食パンなどを丁寧に焼き上げている 使用している小麦は北海道・十勝産のもの。社員全員で北海道の小麦畑を訪問し、生産者の思いを実感するための研修を行っている。 また、生産者を川越ベーカリーに招き、お客さんが喜んでパンを買っていくところを見ていただいている。 小麦以外の材料も、川越のサツマイモ、狭山のお茶など、できるだけ生産者の顔が見える食材を使っている。 人気の「お味噌のパン」は特別栽培の国産大豆と玄米を使った埼玉県秩父の味噌メーカーの味噌を使っている。 北海道の小麦生産者をはじめ、思いを同じくする人々とネットワークして、人と人のつながりを基盤に地元・国産の食材を使ったパンづくりをしていきたいという。

また、店舗や店舗の周りの「空間づくり」にも力を入れている。 店舗は川越の町家をイメージしたもので、シックハウスの原因になる新建材ではなく「西川材」という埼玉産の無垢(ムク)材を使い、くぎは一本も使っていない。 内装の壁は自分達で漆喰を塗った。安全で安心なパンづくりは店舗づくりから、と環境や健康に配慮している。

お店の横には木の椅子が並ぶスペースがあり、季節の風を楽しみながらコーヒーとお店で買ったパンを食べることができる。 お店の向かい側には、小さなキッチンカーの「お外カフェ」があり、ホットドッグやイタリア風のサンドイッチ、カフェラテやお洒落なドリンクが提供されている。 川越ベーカリー楽楽のパンづくり・お店づくりは「生活者視点」。生活者として、食を考え、町を考え、環境を考えている姿勢が感じられる。 最後に、店主の上野岳也さんは「パンと一緒に心地よい空間を提供し、地元の人、お客さんに喜んでもらいたい」と語った。 「町のパン屋さん」という仕事は、パンを提供すると同時に、パンのある幸せな生活空間を提供することなのだろう。

「町の小さなパン屋さん」のキーワード

日本ならではのパン

川越ベーカリー楽楽ではパンの歴史的背景を知るうちに、欧州のハード系のパンを模するのではなく、日本で育った日本のパンに敬意を払い、 さらに発展させて日本人に広く愛されるパンをつくっていきたいと考えるようになったという。 日本の食パン、菓子パンは日本のパン。日本では普通サイズの食パンや、菓子パンのように具材を生地で包んだパンは欧米にはない。 小麦や素材が本来持っている風味を引き出し、日本人独特の「もっちり」食感のパンをめざす。 そのために、手間ひまを惜しまず、小麦粉を十分に水和させ、じっくり熟成させ、小麦の旨味と瑞々しさを活かしたパンをつくる努力を続けている。

安全で安心なパンづくりは店舗づくりから

川越ベーカリー楽楽は店舗や店舗周りの「空間づくり」にも力を入れている。 店舗は川越の町家をイメージし、ラフ・デザインは岳也さんが起こした。 シックハウスの原因になる新建材ではなく「西川材」という埼玉産の無垢材を使い、くぎは一本も使っていない。 内装は友人仲間が一緒に塗ってくれた漆喰(しっくい)の壁、塗料は植物性オイル、 断熱材はペットボトルのリサイクル素材、安全で安心なパンづくりは店舗づくりから、と環境や健康に配慮している。 売場も手づくりで、祖母宅で使われていた年代物の箪笥も置いている。この店舗の二階は店主ご夫婦の住まいだそうだ。

ムク

楽楽の看板犬の「ムク」の名前は店舗に用いた無垢材のムクなのだそうだ。ムクは家族の一員でもある。

産地と消費者を結ぶ

江戸時代、絹織物の産地として栄えた川越は、明治時代に入っても埼玉県一の商業都市だった。 「蔵造り」は舟運による江戸との商いで富の蓄積があった川越商人が防火のために導入したもので、市民による自治的な町づくりが昔から行われていた。 蔵造りの町の再生が商店街、市民主導で進められたのもこの伝統を引継いでいるから。 「産地と消費者を結ぶ」ことを使命とする川越ベーカリー楽楽のビジネススタイルもこの川越商人のDNAを引継いでいるのではないだろうか。

川越ベーカリー 楽楽 川越市元町2-10-13
049-257-7200
http://www.bakery-rakuraku.com/