暑い夏に食べたくなる小麦めんといえば、「そうめん」「ひやむぎ」。
現在では「そうめん」と「冷や麦」の違いはめんの太さであると
工業規格(JIS)で定められていますが
(前者は直径1.3mm未満、後者は1.7mm未満)、
「そうめん」はもともと奈良時代に伝わった指で生地を伸ばす
「索餅(さくべい)」というめん、
「冷や麦」は室町時代に作られるようになった包丁で切るめんのうち、
極細に切ったものがルーツだったと言われています。
今日はこのうち「そうめん」をとりあげてみたいと思います。
そのきっかけは最近友人から次のような「そうめん」の面白い食べ方を聞いたからです。
酢味噌そうめん(静岡県遠州地方~愛知県三河地方)
「そうめん」といえばめんつゆで食べるものと思っていましたが、
静岡県浜松市の友人宅では先祖代々「酢味噌」で食べているということを聞きびっくりしました。
ねぎのぬたに使うような砂糖・みりんで練った酢味噌をそうめんの上にかけてかきまぜて食べるのだそうです。
何人かの友人に聞くとどうも赤味噌(八丁味噌)の文化圏、山間部に近いところで食べられているようです。
同地域で生まれたきしめん(芋川うどん)はうどんの中でも発祥が古いと言われていますし、
浜松市に伝わる醤や味噌に近い浜納豆(塩辛納豆)は奈良時代に中国から京都に伝わり、
醤油がまだなかった時代には小麦めんを酢や味噌で食べていたといいますから由緒正しい古式な食べ方なのかもしれません。
そのほかにも、こんな興味深い「そうめん」料理があります。
鯛そうめん・鯛めん(瀬戸内海・北九州の沿岸部・金沢)
瀬戸内沿岸地域や長崎・熊本県などの北九州では結婚式などの
ハレの日にそうめんに鯛を添えたお料理を最後に出すのが伝統だそうです。
鯛は焼いたり煮たり、煮汁をかけたり、一緒に煮たり、とレシピは少しずつ違うのですが、
非常によく似たお料理が今に伝わっているというのが興味深いです。
そうめんを波に見立ててデコレーションしたりします。
探してみますと作られているのは海岸部の漁師町で、
鯛を使うので当然ですが、「海」と関わりが強いお料理のようです。
やはり「鯛そうめん」が名物の淡路島では、かつてそうめん作りは漁師の冬の副業だったそうです。
こんなこともあって、海路を通じてお料理が広がったのではないでしょうか。
茄子そうめん(瀬戸内海・北九州の沿岸部・金沢)
「鯛そうめん」を調べていて気がついたのが、
「鯛そうめん」がある地にはなぜか「茄子そうめん」という夏の定番料理があるということです。
茄子を揚げて鷹の爪、醤油、砂糖で煮た料理は「オランダ煮」と呼ばれ、
これにそうめんを添えたり、一緒に煮た料理が見られます。
長崎県の天草地方では魚を揚げてから煮るお料理を「オランダ煮」と呼びます。
こんにゃくのピリ辛煮を「オランダ煮」と呼ぶ地域もありますし、
揚げ魚に鷹の爪入り甘酢をかけたお料理を「南蛮漬け」と呼んだりします。
どうも「鯛そうめん」も「茄子そうめん」も海路で伝わったようですが、
それが16世紀だったのか、幕末だったのか。
真相は謎に包まれていますが、そうめんのロマンを感じてワクワクしてきます。
食べものはいろいろな時代にいろいろな食べ方をされてきたはずですが、そのすべてが記録に残っているわけではなく、
実際にはどうだったのか本当のところはわかりません。
しかし想像力を羽ばたかせていろいろな思い(ファンタジー)をめぐらせるのは非常に楽しいものですね。
コムギケーター 石川玲子