BOULANGERIE JEMEAUXブーランジェリー・ジュモー
東京都足立区
東京の下町、足立区五反野に双子の兄弟がやっているとてもおいしいパン屋さんがあると聞き、お話を伺いに出向いた。 駅前の細い路地をちょっと入ったところにあるお店、ジュモーはフランス語で双子という意味。お店の名前通り、双子の兄弟がやっているパン屋さんである。 高校卒業後、兄の新井修史さんはアンデルセンに入社して3年、弟の蔵史さんはポンパドウルに2年、その後一緒にドンク、ジョアンで11年間修行を積み、賞も受賞した。 そして、パンづくりの仕事に入る時から決めていた様に会社を辞めて独立し、二人で一緒に2007年にパン屋をスタート、15年越しの夢を実現した。 現在は、前の職場で一緒だった気の合う仲間と3人でお店を経営している。県境は越えるが自宅と職場は近い場所にある。 兄弟が一緒にパンづくりをしていて喧嘩にならないのかと聞いてみた。 好きなモノや感じ方が似ていているので、(やはり喧嘩はするが)仲良く仕事をしているという。 双子ならではの対等でフラットな関係が良好なパートナーシップの秘密らしい。
パンの仕事についたきっかけを聞いてみた。 「子どもの頃、母が買ってきてくれたパンがとてもおいしくて」 兄弟のお母さんはとてもパンが大好きだったそうだ。
お母さんは、フォションのパンや、横浜元町のポンパドウルの赤い袋に入ったパンをよく買ってきてくれた。
バターだけをつけたシンプルなパンをみんなで楽しく食べた思い出が二人の心に残っているのだという。
学校を卒業して就職を考えている時、「手に職をつけるといいよ。粉から食べものになるまですべての工程をこなす仕事だったら自分たちの力で生きていけるよ」と
女手ひとつで子ども達を育て上げたお母さんは、パンづくりの仕事を勧めてくれたのだそうだ。
兄弟は、お店のある日は早朝にパンづくりを開始する。しかし、二人は口を揃えて言う。「勤めていた頃はとても仕事がきつかった。
それに比べれば今は楽なものですよ」。 企業で技を磨いてきた兄弟は知識豊かで合理的にパンをつくる。
小麦粉の特徴やブレンドの仕方、生地の発酵についても詳しく、自分の舌で確かめておいしければ既成のペーストも利用するそうだ。
厳しいパン職人の現場を経験してきた二人だからこそ、手間を省き、生活にゆとりを持つことの大切さをよく知っているのではないだろうか。
週末には修史さんは釣り、蔵史さんは格闘技の空道を楽しむ。 毎日がとても充実しているという。自分たちのつくりたいパンを自分たちのやり方でつくり、 自分たちの暮らしたいように暮らしているからこその自在感、開放感なのだろう。
新井兄弟の焼くパンはコンテストでも賞を取ったほどの洗練されたパン。
二人は小麦の味を活かした「シンプルなパン」が一番好きなのだという。
ジュモーの食パンは男性やごはん党にもファンが多く、もっちりしてとてもおいしいと評判だ。
しかし、さらに二人は老若男女誰にでも愛される「地元に合ったパン」をつくりたいという。 子どもの好きな菓子パンやカレーパン、サンドイッチもつくる。幼稚園の「パンの日」には「甘いパン」と「しょっぱいパン」、 高校のお昼にもパンを納品している。女子高校生の間ではクイニィアマンがおいしいと評判だ。
ジュモーでは兄弟のお母さんが仲卸で取り扱っているレタスなどの野菜をパンづくりに使っており、店頭でも時々野菜を販売する。 パンを買った帰りに、野菜も買っていくお客さんもいるそうだ。 こうして地元に溶け込み、「地域に愛されるパン屋さん」になることがジュモーの夢だという。
自己裁量性
モノづくりには計画的な製パン工程のデザインが必要だが、パンづくりも同様に計画性が必要だ。 そのためか、パン職人さんは自分の意志で仕事をどのようにやりたいのかを自分で決め、遂行していく「自己裁量性」が高い人が多い。 cimaiの三浦有紀子さんによると、「子育てとパン屋さんを両立できるかはその人のやり方次第」なのだそうだ。
フラットな関係
「町の小さなパン屋さん」で働くスタッフの関係は少人数ということもあってヒエラルキーがなく、フラット(対等)な関係である。 それぞれが得意分野を活かして役割を分担するか、誰もがすべての仕事をマルチにこなし、ローテーションするなどの方法を取っている。
合理的なパンづくり
企業でパン職人の技を磨いてきジュモーの新井さん兄弟は、合理的、科学的なパンづくりを習得している。 商品という最終成果物を厳しく評価されてきた経験もあり、最終的にお客さんの口に入るパンがおいしいかどうかをいつも念頭においてパンづくりをされているようだ。 また、職人さんが疲弊してしまってはおいしいパンをつくることができない。合理的にパンをつくり、手間を省き、生活にゆとりを持つことを大切にしているように見受けられた。
幸せなパン
「パンの香りはとても幸せな香りだ」というコトバをよく聞くが、それはパンとともに思い出される幸せな思い出のせいかもしれない。 新井さん兄弟のお話を伺ってそう思った。
地元に愛されるパン
地元密着型のパン屋さんの店頭には、種類の多寡はあっても必ずといっていいほど、菓子パンやカレーパン、日本の伝統食材を使ったパンがある。 「町の小さなパン屋さん」は町のお客さんが喜ぶパンをつくっている。その中から本物の日本のパンが生まれてくるのだろう。
BOULANGERIE JEMEAUXブーランジュリー・ジュモー |
東京都足立区中央本町2-27-15 03-3868-2759 |
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