判明小麦上手はご長寿上手。京都編

京都篇

「2人で釣りに行く時はサンドイッチや菓子パンを持っていきますね」と話すのは、京都市在住の佐伯都江さん(74)・和彦さん(72)ご夫妻。昔からパン屋さんが多くパン購入量No.1の京都※1は同時に、男女ともにご長寿優良地域※2もしかして、パン食とご長寿には相関があるのでは!?

そう考えた「コムギが長寿を調査する!プロジェクト」はこの仮説に迫るべく、京都在住70歳以上のご夫婦の方々にヒアリング調査を行ってまいりました。 パン食のタイミングはみなさんほぼ朝食とのことです。「チャチャッと食べられますしね。何品もおかずや副菜を用意しなくてもいいので準備が簡単。夫もパンなら自分で用意してくれるんです」とのお答え。なるほど、準備が簡単だという点から朝パンなんですね。 ところが「自分で準備せずに済む旅行先の朝食ビュッフェではなにを食べられますか?」という質問に、「パンを選びますねぇ。なんでしょう、習慣になっているからかしら」と、みなさまほぼ一致したお答えです。「珈琲が飲みたいからパンをチョイスするわ」という、喫茶店文化が根づく京都らしい答えもありました。

朝パンで一緒に食べるのは?「その日の気分でバターやジャムなど好きなものを選びます。それと我が家は、ローストハム、オニオンスライスが定番ね」と、すべて京都が全国消費量No.1の食材が挙がる一方で、「前日の残りものカレーを乗せたり、パスタを挟んだり」といった声も。みなさん思い思いの朝パンを楽しんでいるんですね。

長寿研究の第一人者である名古屋学芸大学の下方教授は「日本人の寿命が延びたのは、和食の中に適度に洋食が混ざることでバランスよく食材が摂れるようになったから、という見解があります。パン食のお供としてよく食べられるハムや牛乳などからはタンパク質を、野菜からはビタミンなど。さまざまな栄養が摂取できますね」と話します。バリエーション豊富な京都人の朝パンにも、ご長寿のヒントがありそうです。

※1総務省「家計調査」平成25年から27年の平均より
※2厚生労働省「平成22年都道府県別生命表の概況」より
原稿監修:名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科・医学博士 下方浩史教授

調査対象:京都市内居住の70代以上の夫婦:5組(10名)
調査方法:京都市内の喫茶店に対象者を集め、専門モデレーターによる個別インタビュー

●日常での食生活実態/朝食・昼食・夕食でのパン食実態
●普段のパン食/自慢のパンメニュー/京都ならではのパン食
●お気に入りのパン屋(ベーカリーショップ)・カフェ等
●夫婦で食べるパンメニュー・外食での状況
●70代になってからの食生活におけるパンの位置づけ
●健康長寿と小麦食/パン食の関係をどう考えているか
●京都人がパン食を好むのは何故か、高齢者でのパン食とは?等

調査日時:2016年10月24日(月)~26日(水)
調査会場:京都市「柳月堂」喫茶(談話室)

  • ご協力いただいたご夫婦
    みなさまのパンライフ
  • 木村さんご夫婦木村さんご夫婦

    子どものころ家にドイツ製のパン焼き器があり、焼き立てパンで育った筋金入りのパン好き奥様。西陣の機械を扱う仕事に従事されていた旦那さまは、クリームパンが大好き。お2人ご一緒にお寺へお参りするのが日課です。

  • 川合さんご夫婦川合さんご夫婦

    「夫はいつも5枚切りの厚切りトーストにバターとジャム。私は、トーストやハード系のパンにオリーブオイルをつけて」と話す奥さま。「私がしょうもないことを言うと、すかさず妻がツッコミます」と話されるように、会話がにぎやかなご夫婦です。

  • 佐伯さんご夫婦佐伯さんご夫婦

    伝統工芸である京鹿の子絞りを手掛けてきたお2人。一日中ずっと一緒にいる生活を過ごしてきました。お仕事引退後は釣りが趣味となり、お2人が好きなサンドイッチやバターロール、レーズンパンなどを持って出かけます。

  • 宮本さんご夫婦宮本さんご夫婦

    二人三脚で手織りの西陣織を手掛けられてきた宮本さんご夫妻。結婚当初から朝は食パンと決まっており、お仕事を引退した今でもささっと済ませる朝パンが習慣です。あんぱんやメロンパンなどお2人とも甘いパンが好き。

  • 奥村さんご夫婦奥村さんご夫婦

    「お互い好きなことに忙しい、お気楽な夫婦です」と話すお2人。娘さんとそのお孫さんとの同居で、日々にぎやかな食卓です。持病を抱える旦那さまは健康のために大好きな甘いパンを節制しなければいけないのがお悩み。

  • ヒアリング調査会場:柳月堂(京都市)

    ヒアリング調査会場:柳月堂(京都市)

    京都市は出町柳駅から東に約70m先に会場である「柳月堂ビル」は位置しています。1階が「ベーカリー柳月堂」、2階にクラシック喫茶「柳月堂」。今回のヒアリング調査はこの2階の喫茶店談話室にて、京都在住の70歳以上のご夫婦をお招きしお話をお聞きしました。

    シックなバーカウンターのある談話室に、大型スピーカーやアンプ、グランドピアノ等のある鑑賞室。クラシック音楽を愛好する創業者・陳芳福さんが、1953年にこの「柳月堂」を開業させました。陳さんは台湾から日本に渡って来られ、京都大学で物理化学を勉強された経歴を持ちます。創業時のパンづくりに関して理系ならではの観点を感じられるお話しをお聞かせいただきました。 『戦前戦後の時代は配給が主だったため物資に乏しく、パンは贅沢なごちそうでした。甘ければいい、というのがパンに求められていた基本的な条件。物理化学選考のさがか、いかに甘さを感じてもらえるパンに仕上げるか、を追究していましたね。あんぱん、クリームパン、ジャムパンなんかがよく売れてね。メロンパンが開発されたのはもっとずっと後ですけど、「サンライズ」という商品名でとてもよく売れた。京都人は甘いものが好きなのかもしれないね。“甘い食べもの”という共通点から、初期のベーカリースタッフには和菓子職人にも来てもらった。昔は和菓子の技法も取り入れてパンづくりをしていたんです。焼いたパンは西陣をはじめ、京都の伝統工芸の職人さんに卸すことが多かった。屋台をひいて団地にも売りに行きました。団地では飛ぶように売れましたね。パンは京都の家庭の食文化として、昔から楽しまれ続けています。』

判明!だから京都はパン食人!?

伝統的な町屋造りが続く街並みや寺社仏閣、伝統工芸に舞妓さん、 そして、京のおばんざいと、和のイメージが強い京都ですが “洋の主食”パンの消費量№1の地域。 この理由と考えられる根拠は諸説あるようですが、 今回「コムギが長寿を調査する!プロジェクト」が行った ヒアリング調査を通して、独自の考察をまとめてみました。

朝ごはんはチャチャッと!

ヒアリング調査の際にみなさん口をそろえておっしゃっていたのが「朝ごはんはチャチャッと済ませたい」とのこと。「パンだと鮭を焼いたりお味噌汁を作ったりしなくていいから、準備が楽ですねぇ。具材と一緒にトーストを焼いている間にサラダを盛って、できあがり。夫はまったく台所に踏み入れませんが、ジャムやバターを塗るぐらいの仕上げならしてくれるし。」なるほど、確かにパン食は準備が楽かもしれません。でも「チャチャッと」は、それだけではない模様。「チャチャッと食べられるのも、朝パンのいいところなのよ。重すぎないし、食べすぎない。チャチャッと済ませられますね」と、お答えの方も多数。どうも「チャチャッと」がキーワードのようです。『京都チャチャッと朝パン文化』と名付けてみましょうか。

パン屋さんが多い

ヒアリング調査でみなさまにお聞きしたところ、暮らしていて実感するほど京都はパン屋さんが多いそうです。お気に入りのパン屋さんも何軒かあるとか。実際のところはどうなのか!?統計局のデータを調べたところ、全国のパン屋は10,060軒で、人口10万人あたり7.89軒。最も多いのは愛媛県で13.22軒。2位は京都府で10.67軒。(統計局「経済センサス-活動調査」平成24年より)なるほど、やはり多いですね!街中でのパン屋さんへの出会いが多い分パンとの出会いも多く、また、パン好きの方にとっては「パン屋さん巡り」もしやすい環境。ヒアリング調査の際にも、「あんぱんが好きなので、いろんなパン屋さんを巡ってあんぱんの食べくらべをしてみたいんだよね」とおっしゃっている男性がいらっしゃいました。

職人さんの街

宮本さんご夫婦が
手がけられた西陣織

京都は伝統工芸が息づく職人の街。お話をお聞かせいただいた方の中にも現役時代は「西陣織」や「鹿の子絞(かのこしぼり)」の職人さんとして活躍されていた方がいらっしゃいました。忙しく手の離せない職人さんは、お昼どきの食事を簡単に済ませることが多いそうです。そこで手軽に食べられるパンがもてはやされた!?事実、1953年から続く老舗のパン屋さん「柳月堂ベーカリー」の初代ご主人のお話では、昔は卸売として職人さんへ納品していたそうです。

新しもの好き

京都人は「新しもの好き」の一面があるようです。その背景としては、江戸時代は日本一の工業都市だったことが考えられます。西陣の着物、 清水の陶器、 扇子等々、 さまざまな工芸品が作り出されてきました。いわば、新しいデザインを生み出す地域。そのため新しいものへの感度も高いのではないでしょうか。その気質を受け継いでか、明治時代にもいち早く市電が通ったり、電気が灯されています。こうした京都人の気質が、戦後に入ってきたパン食を好意的に受け入れ、パンが日常食として根づくようになった一因なのかもしれません。

学生の街、珈琲の街

京都は大学が多い街、そして喫茶店が多い街としても知られています。昔は研究の合間にコーヒーを飲んで一息つく学者さんや、読書や勉強に勤しむ学生が集う光景が見られたそうです。そんなコーヒータイムのお茶請けとして、あんぱんも好まれていたとか。京都は実は、コーヒーの消費量もNo.1な地域。(総務省統計局「家計調査」平成23~25年より)京都というと「和菓子と抹茶」というイメージもありますが、これからは「コーヒーとあんぱん」の組み合わせにも注目です。コーヒーのエピソードとしては、今回の調査対象の方の中に「コーヒーが飲みたいから朝パンなんです」と答えていた方もいらっしゃいました。

京都にパンが根付いているのはなぜなのか!? パンのことを知るには、やはりパンの専門家へ! 京都在住95歳のご長寿パン職人さん、 京都に創業し100年の歴史あるご長寿パン屋さんに パンとご長寿にまつわるお話をお聞きしました。