和麦ストーリー 
栃木和麦「ゆめかおり」篇

笠原産業株式会社
代表取締役社長 笠原健一さん

“海なし県”であり港湾から遠い栃木県において、運送コストがかかる輸入小麦の製粉ビジネスは有利ではありません。そうした制約の中で製粉業を考えていくとき『この地域ではもともと数百年にわたる小麦生産の実績がある。いまこそ地元の和麦と手を取り合うべきだ』という考えに至ったと、栃木&北関東(群馬・茨城)和麦を手がける製粉会社「笠原産業」の笠原社長は話します。

『遡ると江戸時代には確実に小麦の生産がされているという記録があるんですね。この歴史って改めて考えてみるとすごいんじゃないかと。農家の人は農産物がおいしくなるためにいろんな手間をかける、それが伝承として伝わっているんです。小麦栽培の農法として伝統的に行われてきた「麦踏み」だって、ほかの農産物では植物を踏むなんて行為は考えられないですよね。現代になって霜の時期に根が浮かないようにするための方法だと、理にかなっていることが学術機関の研究によって証明されているわけですが、当時の農家の人たちが学んで行っていたとは思えません。こうして歴史的に脈々と受け継がれ、工夫されてきた小麦ですから、栃木和麦はすばらしい麦なんですよ。』

栃木と北関東の和麦の現場を考える中で、生産から加工・製粉・流通・消費まで一体となって、より力を発揮していくプロジェクト「麦わらぼうしの会」を平成14年に発足させました。

『トマトやキュウリなど一般的な野菜は、食卓に料理として出てきたときにも農家の顔が想像しやすいですよね。ところが食卓にのぼるまでに、生産→製粉→加工→調理、という過程を経る小麦は、生産から消費までが遠い農産物。逆に、農家の方もどう食べられるかをイメージして生産しづらいですよね。農家や加工会社の方にはご自分がされている仕事がどれほど社会的意義があるか、どれほどの世の中を明るくしているかをお伝えする。生活者には自分が食べている和麦食品に、どれだけ素敵なストーリーが込められているかをお伝えする。そうすることで、この地域の和麦の魅力が螺旋的に高まっていくような、地域をまるごとがつながるさまざまなイベント開催や情報発信をしています。』 栃木和麦の魅力をもっともっと拡げていきたいという思いから、2018年2月にリニューアルする笠原産業事務所も栃木和麦の発信場所にしてしまおうという動きがあるそうです。

『新しい事務所にはパン教室やうどん教室が開ける調理室を設置する予定です。この調理室を、栃木和麦を使って行うイベントの場合は無料で貸し出しをしようと思っているんです。プロの麺屋さんやパン屋さんなどにかかわらず、地域の方・団体までさまざまな方に。栃木和麦の魅力は、実際に使っている方々の声がなによりの証。今後もさまざまな取り組みを考え続けていきたいですね。』

<栃木和麦がおいしい理由 監修:宇都宮大学農学部 前田忠信 名誉教授>

①関東ローム層を黒ボク土が覆い、水はけもよく、麦の生育中に根を深く張ることができる。
②冬の日照時間が長く、3月の茎立期(くきだちき)までの間に、茎基部(茎のもとの部分)に充分な蓄えを作ることができる。
③春先の低温が病害の発生を少なくし、防除回数も減らすことができる。
④小麦の収穫は大敵である雨がよく降る6月の梅雨時期だが、比較的栃木県内では長雨は続かない。
⑤二毛作の北限で水稲と麦、もしくは大豆と麦の二毛作ができ、農家としての経営が成り立つ。

◎麦わらぼうしの会HP
http://www.mugiwaraboshi.jp/

栃木和麦の基本情報

和麦名 ゆめかおり
成 分タンパク:11.5%
灰 分 :0.4%
粉分類強力粉
特徴・向く料理 パン用、ピザ用、餃子の皮用、そばつなぎ用

栃木和麦cookingレポート

ホーローde湯種食パン

ホーローde湯種食パン

栃木和麦アンバサダー
藤田裕子先生

さまざまな理論や製法を追究し、あらゆる角度からパンづくりを考える和麦アンバサダー・藤田裕子先生のレッスンは、まさしく「和麦LABO」さながら。ホーロー容器を使ったパンづくりが学べる教室です。研究&実験好きな藤田先生だからこその、的確なパンづくりのポイントをおさえた指導に、生徒のみなさんが聞き入ります。また、パン好きが集まった藤田先生のレッスンでは、好きなパン談議が繰り広げられ、生徒さん同士の情報交換の場としてもにぎやかに盛り上がっていました。

Points of 栃木和麦レッスン

『すでに「ゆめかおり」を使ったレッスンは始まっているんですけど、「違いを感じる!」というコメントをいくつもいただいています。』との先生が切り出すと、『確かに、今日はコムギの香りが違う!って感じました。』と生徒さんから早速コメントがあがります。

『日照率が高く火山灰が積もった大地でつくられる栃木和麦は、根が深く茎がしっかりと育つので、強い麦が育つと言われています。小麦の香りが強い、とおっしゃる方もいらっしゃいますね。』と、栃木和麦の開設は笠原産業・笠原諒子さんから。 『実際に触ってみると、こねるときの硬さ加減とか、生地のゆるみ具合とか。食べてみると、風味や、食感、さまざまな感じ方があると思います。みなさん、今日は実際にどんどん触れて、栃木和麦を感じてみてくださいね。さあ、レッスン開始♪』 今回のレシピのポイントは「湯種製法」を用いたパンづくりとのこと。さて、「湯種製法」とは?

※レッスンは「ホーローde湯種塩バターパン」ですが、下部に掲載しているレシピは手順の簡単な「ホーローde湯種食パン」となっています

『「湯種製法」は、小麦粉をアツアツの熱湯でこねて、デンプンを糊化させた「湯種」を生地に入れ込むパンづくりの製法です。今回なぜ「湯種」を使ったパン作りにしたかたというと、「焼き上げた翌日もしっとりとしたパンを食べたい」という生徒さんの声がよくあるんですね。翌日になるとパンてパサついちゃいますよね。翌日もしっとりとしたパンて、どう仕上げればいいんだろう?と検討を重ねてみて、「湯種製法」を採り入れることにしました。「湯種」を使うことで、かなりもっちりとした食感に仕上がります。』 焼き上がりを意識して、製法を変えていく。パンづくりはひとつひとつの工程に意味があり、いろんな要素が絡みあって味わいが決定するのだと藤田先生は話します。 『それで、今日は2種類の「湯種」を用意しました。前日仕込みのものと、当日仕込みのものです。ほら、触ってみて。感触がぜんぜん違うのがわかると思います。』生地を触る生徒さんたちから感想の声があがります。『ほんとだ~!こちらの前日仕込みの「湯種」生地は、ゆるゆる~っとしています。』『当日仕込みの「湯種」生地は、ぷりぷりしてますよ!』2つの「湯種」生地は、感触がだいぶ違うようです。

『仕込んだ直後の「湯種」はぷりんぷりんして弾力があるの。これを1日寝かせると小麦にしっかり水が浸透し、ゆる~っとした生地になっていくんですね。それで、この「湯種」を使って仕上げたパンはどうなるか。前日仕込みの「湯種」を使うとふんわり軽い仕上がりに、当日仕込みの「湯種」を使うとモッチリ感の強いパンに仕上がります。「ゆめかおり」を同じ分量で使うのに、違いが出るの。ね、不思議でしょ。』

栃木和麦、いただきます!

『「ゆめかおり」はとてもシンプルな、素材の味を引き立てるような粉だと思います。お惣菜パンなんかと合わせてもいいですよね。香ばしさを乗せたい時は、全粒粉をプラスしてみてください。』今回「ゆめかおり」で感じてもらったように、パンづくりはとても奥が深く、研究しがいがあります。みなさんも和麦を使ったパンづくり、いろいろ試して研究してみて、おいしいパンを焼いてくださいね』

レッスン参加者の声

  • 「湯種食パン」、ふわふわもっちりでびっくりしました!時間が経ってもやわらかくておいしかったです♡

  • 今回のレッスンで「ゆめかおり」という粉を始めて知りました。普段から地産地消を心がけているので、東京に近い栃木の和麦を食べられるのはうれしいことです。

  • 忘れないうちに復習してみようと思います!

  • 「ゆめかおり」、こねている間も思ったんですけど、香りがよかったです。

  • おいしい和麦だったので、もっと手軽に買えるようになったらうれしいです♪

栃木和麦を使ったレシピ

ホーローde湯種食パン

<湯種用>
○ゆめかおり・・・・・・・・・・50g
○熱湯・・・・・・・・・・・・・50cc

★ゆめかおり・・・・・・・・・・200g
★きび砂糖・・・・・・・・・・・18g
★スキムミルク・・・・・・・・大さじ1
★塩・・・・・・・・・・・・・・2.8g
○無塩バター・・・・・・・・・・25g
○インスタントドライイースト・・3.8g
○ぬるま湯(40℃くらい)・135~145cc

調理時間約130分/ホーロー型1個分

  • 1

    熱湯とゆめかおり50gをボウルで合わせて、ゴムベラでよく混ぜ、台でよくこねる。一晩冷蔵庫で寝かせる。

  • 2

    小さなボウルに、ぬるま湯、イースト、湯種をちぎりながら入れる。

  • 3

    大きなボウルに★の材料をいれ、ざっと混ぜ、2と合わせてよくこねる。

  • 4

    生地につながりができてきたら、バターをいれて、よくこねる。(グルテン膜がつながるまで)

  • 5

    35℃で40〜50分程度生地が2倍になるまで発酵させる。

  • 6

    2分割にして丸め、ベンチタイムを10分とる。

  • 7

    成形:綿棒で8x30cmに伸ばし、張らせるように巻いていく。

  • 8

    バター(分量外)を塗ったホーロー型の壁面に、それぞれ生地をならべる。

  • 9

    最終発酵:38℃で20〜30分程度発酵させる。(生地がふっくらするまで)

  • 10

    焼成:200℃で20〜30分焼く。

レシピポイント

・湯種は沸かしたての熱湯でつくる。
・湯種はよくこねて、グルテンを作っておく。
・湯種は冷めたら、冷蔵庫で一晩寝かして、小麦に十分に水を吸わせておく。
・とにかく生地をしっかりこねあげる。
※型として使用したホーロー:富士ホーローcukka深型Mサイズ(w175xD115xH75mm)